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2017年 8月 25日 VOL.086

映画『幼な子われらに生まれ』

 ― 撮影 大塚亮氏、照明 宗賢次郎氏 インタビュー

16mmフィルム撮影と減感現像で作品にマッチしたトーンを生み出す

(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

「やっぱりこのウチ、嫌だ。本当のパパに会わせてよ」
―― 娘に言われたとき、妻には新しい命が宿っていた。
「普通の家族」を築けない、不器用な大人たちの愛すべき物語。

数々のベストセラーを手がけている直木賞作家・重松清が1996年に発表した傑作小説「幼な子われらに生まれ」を、『しあわせのパン』『繕い裁つ人』などで幸せの瞬間を繊細に、丁寧に紡いだ映画で、多くの観客の心に感動を届けてきた三島有紀子監督が映画化。8月26日(土)よりテアトル新宿・シネスイッチ銀座ほか全国の劇場で公開となります。

 

今回は、撮影監督を務められた大塚亮氏と照明技師の宗賢次郎氏に、全編16mmフィルムでの撮影を選択された背景や撮影現場のお話などを伺いました。

作品にマッチした独特なトーン

今回、全編で16mmフィルム撮影を選択していただきましたが、その理由をお聞かせ下さい。

 

大塚C: もっとも大きな理由は、デジタル撮影では得られない16mmフィルムが持つ独特のトーンが今回の作品で描いている内容にマッチするなと感じたからです。16mmは『さよなら渓谷』(大森立嗣監督、2013年公開)でも経験していますし、プロデューサーもフィルム撮影に関して前向きに考えて頂けたこと、それに、実は三島監督もこの作品がフィルムで撮る初めての作品だったのですが、構想の中でフィルムでやれたらというのがあったそうです。ですからメディアの選択をする話し合いの時に、16mmフィルム撮影を提案したところスムーズに決定しました。照明の宗さんとは助手時代からお互いを知っている仲で、仕事としてお願いしたのは『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(大森立嗣監督、2010年公開)の時が初めてです。宗さんはまだその時サードでしたけど、照明として参加してもらいました。今回で、コンビを組むのは4作品目です。

 

照明技師として独立されてから初めてのフィルム作品だったと伺いましたが、宗さんはいかがでしたか?

宗氏: そうなんでよ。フィルム撮影は助手時代に経験があるのですが、照明技師としては初めてです。基本的に、フィルム撮影もデジタル撮影も照明技師としてやることは同じなのですが、黒の出方がフィルムとデジタルとでは違うというのはありますね。ナイトシーンなどは特にその差があるので、デジタルと比べるとより気を遣いましたね。照明部のチーフもフィルムは初めてだったこともありましたので。

大塚C: 撮影部のチーフの吉田君もフィルム撮影は初めてでしたね。まあその後、すぐ北野組だったので、助手として良い経験になったと思います。

撮影監督の大塚亮氏(左)と照明技師の宗賢次郎氏
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

三島有紀子監督の演出手法

ドキュメンタリータッチな作風だと思うのですが、撮影現場はどのような感じでしたか?

大塚C: 三島監督とご一緒するのは初めてだったのですが、今回の作品の演出は凄く独特な手法だったと思います。観客に劇中の4人の家族を疑似体験させるという演出で、リハーサルは一応やるのですが、演者に対してはあまり限定した明確な演技の指示は出さないんです。特に娘役の少女2人には、監督と助監督でこれからやるシーンを疑似的に経験して貰って、「どう思った?」、「こうなったらどう思う?」ということを繰り返した後で、田中麗奈さんと浅野忠信さんが最後に加わって本番のシーンを撮っていくという流れでした。私もあまり体験したことのない映画の撮影の流れで新鮮でしたね。三島監督も、この作品はこれまで自身がやってきた演出方法とは違う方向性でやろうという意思があったと思います。

宗氏: 現場にモニターはないので、監督は画の技術的なことやフレームや光に関しては大塚さんに絶対の信頼を置いていて、自分は演出に集中するという感じの現場でした。私は大塚さんに付いていくだけでしたけど(笑)。事前の打ち合わせと大きく変えるようなこともありませんでしたし、そういう意味では監督が演出に集中できる現場を作れたと思います。

撮影現場での三島有紀子監督
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

今回の撮影で特に印象に残っているシーン、また工夫された点などはありますか?

大塚C: 撮影で一番印象に残っているシーンは、終盤のリビングでの夕景シーンです。夕方の光を作りながら、時間との戦いで本当に一発勝負だったのでかなり緊張しました。この映画のひとつのクライマックスになるシーンでしたから。あとは雨の高速道路のシーンです。技術的にどう撮るかで悩みましたね。実は、スクリーンプロセスで撮影しています。誰に相談しても、グリーンバックでやればいいのでは?という回答だったのですが、グリーンバックだと16mmですしヌケが悪い感じがあったので、車外は雨で、車内の芝居の臨場感を出すためにスクリーンプロセスに挑戦してみようという話になりました。背景は映写して、車は停めて撮影しています。どの映画でも技術的にどう撮っていくか、超えていかないといけないシーンがひとつふたつあるのですが、今回の映画でいえば、そのシーンがそうでしたね。

(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

宗氏: 私は、夜の雨の喫茶店のシーンです。雷があって、店内が停電して復旧するシーンで、言葉にすると単純なのですが、人手も足りなくて、てんてこ舞いでしたね(笑)。雷、店内の光、そして復旧してからと、全て照明部がそこにスタンバイしていないと出来ないので、学生も使ってやりました。また、フィルム撮影なので、外の雨の表現にも気を遣いました。光をちゃんと当てないと雨が上手くいかないんですよね。

大塚C: 今回は、撮影部も助手2名ですし、照明部も助手が4名と、どの部署も通常の映画と比べると助手は少なかったです。セカンドの大和君がフィルムをマガジンに詰めていましたし。まあ昔はよくそういった現場も多かったので、撮影部に関しては何とかなるとは思っていました。

(左から)撮影監督の大塚亮氏、撮影チーフの吉田真二氏、セカンドの大和太氏
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

1/2減感での16mmの粒状性

仕上がりについては、どうお感じですか?

大塚C: 仕上がりについては想定通りです。全編の99%は減感現像しています。可能な限り200T 7213を使用していますが、夜間は500T 7219です。今までの経験上、減感すれば粒子が小さくなることは分かっていたのですが、テストで500Tと200Tの1/2減感とノーマル現像を比較して、粒状性を比べたら、500Tの1/2減感は柔らかい感じで粒子も小さく上がったのでこれは一石二鳥だなと思いました。ただ200Tの1/2減感よりは粒子があるので、出来るだけ200Tの減感でいけるところはそれで撮ろうということになりました。フィルム撮影ですので、物理的な制約はもちろん監督も感じていたと思いますが、16mmのトーンがこの話には非常にマッチしていたと思います。私は技術パートですので、作品の仕上がりの満足度というと答えに困るのですが、ベストは尽くしましたしフィルム撮影を選択したことは、この映画にとって良かったと思っています。

撮影監督の大塚亮氏
(C)2016「幼な子われらに生まれ」製作委員会

若い世代がもっと挑戦してほしい

今後のご自身の作品でのフィルム撮影については、どのようにお考えでしょうか?

大塚C: どうすればフィルム撮影を今後も残していけるかについては、いつも考えてます。映画を観ている人にとってはフィルムかデジタルかはあまり関係ないとは思いますが、我々の使命は観客を満足させていくことに尽きると思っています。撮影の選択肢として、これからも末永くフィルムが残っていって欲しいと強く思いますし、フィルムを扱える助手も育成していかないといけない。今までデジタルしか知らない若い世代の人がフィルム撮影に挑戦するというのも非常に面白いと思います。ベテランの方々がデジタル撮影に挑戦するのと同じで、いろいろな挑戦の仕方がある方がいいですよね。

(インタビュー:2017年8月)

 PROFILE  

大塚 亮
おおつか りょう

1969年生まれ。笠松則通氏に師事。阪本順治監督の『ビリケン』(1996年)、『傷だらけの天使』(1997年)、行定勲監督の『ひまわり』(1997年)などの撮影助手を務め、大森立嗣監督の『ゲルマニウムの夜』(2005年)で撮影監督デビュー。主な作品:『魂萌え!』(2006年、阪本順治監督)、『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010年)、『まほろ駅前多田便利軒』(2011年)、『さよなら渓谷』(2013年)、『まほろ駅前狂騒曲』(2014年、以上大森立嗣監督)、『クローズEXPLODE』(2013年、豊田利晃監督)、『映画 深夜食堂』(2014年、松岡錠司監督)、『団地』(2013年、阪本順治監督)、『お父さんと伊藤さん』(2016年、タナダユキ監督)など。

宗 賢次郎

そう けんじろう

1977年生まれ、福岡県出身。照明助手として『ケンタとジュンとカヨちゃんの国』(2010年、大森立嗣監督)、『ペコロスの母に会いに行く』(2013年、森崎東監督)、『テルマエロマエⅡ』(2014年、武内英樹監督)、『好きっていいなよ』(2014年、日向朝子監督)、『龍三と7人の子分たち』(2013年、北野武監督)などの作品を経て、『海に降る』(WOWOW/2015年放送)で照明技師としてデビュー。近年の作品では『お父さんと伊藤さん』(2016年、タナダユキ監督)、『愚行録』(2017年、石川慶監督)などがあり、阪本順治監督の最新作『エルネスト』が2017年10月6日公開予定。

 撮影情報  (敬称略)

『幼な子われらに生まれ』

監 督 :三島有紀子
撮 影 :大塚亮
チーフ :吉田真二
セカンド:大和太
照 明 :宗賢次郎
キャメラ:ARRI 16SR-III
レンズ :ZEISS ULTRA 16 9.5/12/14/18/25/ 35/50 mm、ULTRA PRIME 40/180mm (for 35 mm)
フィルム:コダック VISION3 200T 7213、VISION3 500T 7219
ラ ボ :東映ラボテック、東映デジタルセンター
制 作 :ステューディオ スリー
配 給 :ファントムフィルム
製 作 :「幼な子われらに生まれ」製作委員会
公式サイト: http://osanago-movie.com/
映画『幼な子われらに生まれ』本予告

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