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2020年 5月 12日 VOL.155

35mm/2パーフォで撮影された映画『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

ジャレッド・モシェ監督の高い評価を得ている2作目『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』(日本未公開/デジタル&ディスクでリリース中)は、コダック 35mmフィルム に2パーフォで撮影されました。カウボーイのレフティ・ブラウン(ビル・プルマン)は、上院議員に選出されたばかりの長年の相棒エドワード・ジョンソン(ピーター・フォンダ)が残酷に殺害されるところを目の当たりにし、その後、自身の穏やかな生活が崩れていく様が描かれています。

友人の仇を取ることを心に決め、老いたレフティは殺人者たちを追って荒野や広大なモンタナの平原を探し始めます。無法者たちを裁くため、道中で若きガンマンのジェレマイア(ディエゴ・ジョセフ)と、歳をとった飲んだくれの連邦保安官(トミー・フラナガン)の協力を得ることにします。無法者たちとの銃撃戦を経て家に帰ると、友人の殺人犯として自身が告発されていることが分かります。彼は法を逃れて自らの無実を証明しなければなりません。

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』は、撮影監督デヴィッド・マクファーランドにより、モンタナにあるフライフィッシングのメッカであるエニス、それからバナック周辺の荒涼とした原野で、2016年9月の25日間という短期間で撮影されました。

「ジェレッドの脚本が素晴らしいと思いました。これまで西部劇を撮影したことはなかったのですが、ビル・プルマンとは過去に仕事をしたことがあり、いい友人なんです」とマクファーランドは言います。「それに加えて、モンタナでの撮影という魅力と、フィルムで撮影したいというジャレッドの情熱もあったので、このプロジェクトへ参加するのには充分な動機が色々ありました」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』の撮影監督 デヴィッド・マクファーランド (C) A24. Photo by Ezra Olson.

モシェ監督は、第1作目の『Dead Man’s Burden(原題)』(12)という西部劇も35mmフィルム/2パーフォで撮影したのですが、それに続く本作が慣習的に同じフォーマットでいくと決まっていたわけではありません。そのためマクファーランドは、35mm/2パーフォと合わせて、16mm、スーパー35、アナモフィック/4パーフォ等のテストを行いました。

マクファーランドはこう振り返ります。「他のフィルムフォーマットのルックも素晴らしかったのですが、35mm/2パーフォだと自動的にアスペクト比が2.40:1のワイドスクリーンになり、本作のジャンルや時代、風景に合っていました。それに、約500万ドルという控えめな予算からすれば、2パーフォで撮影すればフィルムを回せる時間が2倍に、つまり1000フィート巻き1本あたりの撮影時間11分が22分になるという事実は、フィルム使用量と現像量の点で驚くほど費用効率が良かったのです」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

ジョン・ウェインの映画『赤い河』(1948)や『リオ・ブラボー』(1959)は、共にモシェ監督の作風に影響を与えています。それぞれウェインが演じる型破りなヒーローに対する風変りな脇役としての相棒が登場しており、モシェ監督は特有なキャラクターたちの内面に潜む人物像を探ることに興味を持ちました。映像的な面から言えば、本作の監督と撮影監督は『続・夕陽のガンマン/地獄の決斗』(1966)や『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ザ・ウェスト』(1968)といったセルジオ・レオーネ監督の古典西部劇も参考にしています。どちらも2パーフォで撮影された作品です。

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

マクファーランドはこう述べています。「本質的に本作は、ある年老いた男の通過儀礼的な物語です。彼はごく簡素な生活を送っていたのですが、強欲さ、残忍さ、臆病さに直面した時に誠実さと優しさを垣間見せるのです。私たちは、物語の初めから終わりまで徐々に画をざらつかせて、次第に粗野になるように、世界は最初に思っていたほど完璧ではないというレフティの悟りを巧みに映し出せるような、映画的な言語を創り出しました」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

「私たちが求めていたのはカメラが注目されることではなく、抑制の効いた観察的なカメラワークにすることでした。また、仕上がりは自然なルックにしたいとも思っていました。ですから、できるだけその場の光の中で撮影し、1890年代であればそうだったであろう太陽や月、炎、ロウソク、ランプの光で明るさを足すというのが私の考え方でした」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』の撮影監督 デヴィッド・マクファーランド (C) A24. Photo by Ezra Olson.

マクファーランドは、ツァイス マスタープライムレンズを装着したARRICAM LTを選び、たった1種類のフィルム、コダック VISION3 500T カラーネガティブ フィルム 5219で撮影しました。彼はこう説明しています。「マスタープライムは美しく、明るく、クリアなレンズであり、フレアがきれいで、小さめの2パーフォレーションのアナモフィックサイズのフレームによく機能するのです。普通なら、こういう映画を撮影する時は、おそらく50D、250D、500Tといった3種類くらいのフィルムを使うのでしょうけど、私は全編を500Tだけで撮影することにしました。総じて500Tには素晴らしく広いラチチュードがあり、美しい粒子構造や色の表現を保ちつつも、かなり暗い影の中まで映してくれます。500Tは信じられないほど柔軟なフィルムで、実は私は、このフィルムを異なる3種類のフィルムのように扱ったのです」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

「レフティの世界の均衡が保たれている序盤については、ラボ(フォトケム)でフィルムを1段減感現像し、色を柔らかく、コントラストを弱くして強い黒味をなくし、粒子を細かくしました。映画中盤では、フィルムをノーマルで撮影し現像しました。しかし、事態が悪化してレフティが窮地に陥ると、フィルムを1段増感したのです。それにより、フィルムの粒子感を強めてコントラストを上げ、より彩度の高い色にするという効果が出ました。初めに私が意図したのは、徐々にざらついて粗野になっていく映像を通して、観客に向けての心理ドラマを強調することでした。それは計画通りにうまくいきました。フィルムによって得られる解像度やディテールのおかげで、仕上げのカラーグレーディングでこういったルックを容易に、そして少しだけ強調することができました」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』より (C) A24. All rights reserved.

マクファーランドは、小規模の映画スタッフで仕事をすると、色々な面で撮影に有益であることが分かったと言います。「予算が少なく、現地にいる馬を使い、大勢のスタントを撮影しなければならないのであれば、素早く流動的な動き方をする必要があります。フィルムで撮影したおかげで、私たちは非常に機敏でした。DIT(デジタル・イメージング・テクニシャン)のテントも、ビデオビレッジもなく、2台のカメラ本体とレンズ、そしてマガジンがいくつかあるだけです。素早くドリーにカメラを乗せたり、リモートヘッドをクレーンに取り付けたり、さらにはセットアップも迅速に伝えることができました」

実際に、荒れたジュニパーの丘での追跡シーンがありましたが、フィルムのおかげで本当に撮影を楽しめたとマクファーランドは言います。「アクションのリズムに合わせて自分たちが撮影したいテンポをショットリストにし、バックパックに入れたレンズと予備のマガジンを運び、手持ちカメラによるドキュメンタリーのやり方で撮影しました。こういうシンプルな方法で仕事をするのはとても速くて簡便ですし、クリエイティブな意欲が湧くのです」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』の撮影監督 デヴィッド・マクファーランド (C) A24. Photo by Ezra Olson.

夜のシーンを撮影するのに最高にして唯一の選択肢がデジタルだと思っているなら、もう一度考えるべきかも知れません。レフティが悪党の1人に忍び寄っていく月光に照らされたシーンを500Tで撮影しても、マクファーランドにとっては何の問題もありませんでした。

「ジャレッドは、そのシーンを月光とオイルランプの明かりだけにして、登場人物たちには目の前の1メートル程度しか見えないほど極端に暗くしたいと考えていました」とマクファーランドは言います。「コンドルの照明にはソフトボックスがなく、反対側の丘に18Kはありません。65mmの絞りをT1.3まで開け、ASA感度500で撮影、このフィルムは黒味を本当に真っ黒にし、影になった顔と炎の両方をうまく捉えてくれました。私の結論としては、フィルムは信頼に足り、時には酷使することもできるということ、そしてそれでもなお、フィルムはお返しをしてくれるということでした」

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』の撮影監督 デヴィッド・マクファーランド (C) A24. Photo by Ezra Olson.

マクファーランドはこう締めくくります。「フィルムでの撮影は、間違いなくプロジェクトの質を高めてくれます。35mm/2パーフォを選び、特別な粒子処理を行ったことで、『ワイルド・ウエスト 報酬のバラード』には主人公の葛藤にぴったり合った独特の感触がもたらされました。この映画が好意的な関心を集めたことは大変喜ばしいですし、2パーフォはもっと多くの映画制作者によって試され、利用されるべきフォーマットだと思います」

(2018年1月3日発信 Kodakウェブサイトより)

『ワイルド・ウエスト 復讐のバラード』

 日本未公開、デジタル&ディスク リリース中

 原 題: The Ballad of Lefty Brown
   製作年: 2017年

 製作国: アメリカ​

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