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2023年 2月 16日 VOL.203

ハリウッドの狂騒を描いたデイミアン・チャゼル監督の映画『バビロン』で、撮影監督リヌス・サンドグレンがコダックフィルムの性能を極限まで引き出す

Ⓒ2022 Paramount Pictures Corporation. All rights reserved.

映画監督・脚本家 デイミアン・チャゼルの最新作『バビロン』は、無声映画からトーキーに移行する1920年代後半のハリウッドを舞台に、様々な人間の栄枯盛衰を大胆かつ激しく、時に残酷なまでにコミカルに描いた作品です。米パラマウント・ピクチャーズ製作で映画化された本作の上映時間は189分におよび、その全編がコダック 35mmフィルムで撮影されました。撮影監督のリヌス・サンドグレン(ASC、FSF)は、本作で露出と現像処理の極限まで挑み、印象派の絵画を思わせる素晴らしい映像を生み出しています。

チャゼルが監督と脚本を務めた本作には、ブラッド・ピット、マーゴット・ロビー、ディエゴ・カルバ、ジーン・スマート、ジョヴァン・アデポ、リー・ジュン・リーといった豪華俳優陣がズラリ。「狂騒の20年代」のハリウッド社会がフィクションで表現されており、豪邸で催されるコカインまみれの華やかなパーティーでの享楽主義と、周辺に広がる不毛な砂漠地帯の乾いた熱気、そして映画スターを夢見る者たちや地元の人々の汚れた貧困の現実とが対比的に描かれています。

チャゼルがサンドグレンと組むのは本作で3本目となります。それ以前の2作品は、アカデミー賞でのノミネート数が14を数え、監督賞と撮影賞を含む6部門を受賞した大ヒットミュージカル映画『ラ・ラ・ランド』(2016)、そして高い評価を受けた宇宙飛行士アドベンチャー『ファースト・マン』(2018)で、いずれもコダックフィルムで撮影されました。他にもサンドグレンが撮影に関わった代表的な映画には、『アメリカン・ハッスル』(2013、デヴィッド・O・ラッセル監督)、『007/ノー・タイム・トゥ・ダイ』(2021、キャリー・ジョージ・フクナガ監督)、『ドント・ルック・アップ』(2021、アダム・マッケイ監督)があり、そのどれもがアナログフィルムで撮影されたものとなっています。

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「『バビロン』の脚本は約180ページと長く、ページの端から端までびっしりと会話で埋め尽くされていました」。初めてチャゼルの脚本を読んだ時のことをサンドグレンはそう回想します。「俳優のセリフが時系列順ではなく俳優ごとに並んでいる箇所もあり、視覚的に物語を伝えるテンポに関して、それぞれの場面でデイミアンがどういったペースや強度を求めていたのかを感じ取れました」

「この映画の美的方向性について話した時、彼の意見はとても明快でした。それは『バビロン』を典型的な時代劇や、あるいは洗練された映画などにはしたくないということです。それとは逆に彼が望んだのは、登場人物たちの気概や彼らが経験する堕落、薄汚れた物事の裏側を、好奇心の強い生き生きとしたカメラの目で探求する、従順とは言い難い混乱したサーカスのような作風でした。それは、カメラ自体がある人格を持って動き回り、行動を観察し、登場人物とつながる世界と言えます」

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チャゼルは、自分が影響を受けた映像についてサンドグレンに伝えていました。フェデリコ・フェリーニの『甘い生活』(1960)、ロバート・アルトマンの『ナッシュビル』(1975)、そしてフランシス・フォード・コッポラの『ゴッドファーザー』(1972)で、どれも流動的な社会が表現された映画です。また、サンドグレンは堕落した状況にある人物を興味深く、繊細かつロマンチックに描いた点で、ポルノ業界をフィーチャーしたポール・トーマス・アンダーソンの『ブギーナイツ』(1997)についても触れています。

「これらの作品を念頭に、『バビロン』では印象派的なアプローチを取りたいと考えました。これまでに撮影したどの作品よりも点描的な粒状感、セットや衣装の色彩、画像のコントラストなどを視覚的に強く大胆なものにしたかったのです。これについてはチャゼルも同意見でした。また、本作を35mmフィルムで撮るべきだという点でも私たちは意見を一致させていました。こうした物語を表現するには、それが最もまっとうな方法と思われたからです」

『バビロン』は、2021年の夏から初秋にわたり、主にロサンゼルス周辺で74日間かけて撮影されました。これには、豪華絢爛な夜会が開かれる豪邸内外の撮影も含まれています。パラマウントスタジオのステージや野外撮影エリアには多くのセットが作られました。

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サンドグレンが本作の撮影で主に使ったカメラは、Atlas Orionアナモフィックレンズを装着したARRICAM LT 35mmカメラです。他にもロサンゼルスのCamtech(カムテック)社からは35mmカメラのArriflex 435とスフェリカルのレンズが提供されており、それでモノクロの場面が撮影されています。アスペクト比は1.33:1、使用したフィルムは35mmのイーストマン ダブル-X 白黒ネガティブフィルム 5222でした。

「Orionアナモフィックレンズは、技術的に見てとても優れた、堅牢で高性能なシネマレンズです」とサンドグレンは言います。「広角の単焦点レンズで広い景色を鮮明に写したい時でも画面端までとてもシャープに写ります。また、寄った場合でも、他のアナモフィックレンズのように劇的に像が歪むことがありません。接写性能が素晴らしく、32mmレンズを使えば顔からわずか数フィートまで寄ることができます」

「でも、本作の映像は、全体的により熱を帯びた印象派的なイメージで作り上げたいと思っていました。Atlasの創業者であるフォレスト・シュルツとダン・ケインズは非常に協力的で、予期される照明条件下でハイライトが飛んで、フレアがきらめくようにOrionレンズをカスタマイズしてくれたのです」

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サンドグレンが撮影用に選択した35mmフィルムは、日中の屋外シーンではコダックVISION3 50D カラーネガティブフィルム 5203、日中の屋内シーンでは250D 5207、そして低照度および夜間シーンでは500T 5219でした。撮影済みのネガはバーバンクのフォトケムで現像、4Kスキャンされ、デイリーは最終のグレーディングを担当したCompany 3のカラリスト、マット・ウォラックが管理しました。

これは通常のやり方のように聞こえますが、サンドグレンは「デイミアンと私が当初より思い描いていた大胆かつ鮮やかでザラついた画を得るため、意図的に通常はフィルムをこう露光して現像するであろうというルールをすべて破りました。こういったことは、間違いなく映画学校では教えてくれないことです」と語っています。

「実際には、例えば本作の冒頭のような日中の明るい屋外シーンでは、砂漠が高温で過酷な環境であるという印象を与えられるよう、最終イメージは極端に明るく白飛びしたものにしたかったというようなことです。なので50Dや250Dのネガを常に4段ほどオーバー露光にしてそのようなルック(映像の見た目)を作り始めました。逆に500Tで暗いシーンを撮影する時には、同様に適切な感情的なインパクトをも実現するため、しばしば数個の灯具のみを使用することで通常よりも暗い空間を演出しました」

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「しかし、そこで終わりではありません。その後、通常とは異なる露光が施されたフィルムをすべてラボで増感現像しました。増感現像とは、ネガを通常よりも長い時間、現像液に触れさせることで、彩度を上げ、コントラストと粒子を増加させてフィルムの視覚的な特性を変える技法です」

「これは極端な方法ですが、実際かなりうまくいき、デイミアンと私はいつもワクワクしながら現像結果を待っていました。一部のショットでは、暗部から明部までのダイナミックレンジがまさに限界に達していたと思われますが、デジタルでこれほど極端なレベルのコントラストを満足いくビジュアルで実現するのは困難だったでしょう」

「その結果、狂乱のパーティーのシーンではゴージャスな場にふさわしい豊かで豪華な色彩を、最も暗い脅迫のシーンでは信じられないほどザラついたギリギリの雰囲気を生み出すことに成功しました。色彩の再現と粒状性によって、撮影されたそれぞれのコマがリアルで生き生きとしたのです」

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サンドグレンは、現場の照明にも印象派的なアプローチを取り入れたと言います。ステージに組まれたセットの照明に関しては、時代背景に合うよう特別に組み込まれた器具が使われましたが、ロケでは汗臭さや汚れた感触を表現する目的で、より自然光らしさが追求されています。

「カスタマイズされたOrionアナモフィックレンズ、オーバー露光、そしてラボでの増感現像など、これらが本作の全てのカットに独自性を生み出しました」とサンドグレンは続けます。「最終的なグレーディングの際に驚いたのは、ハイライト部分や暗い部分にまだ撮影された映像のディテールが残っていたことです。そのことは、芸術的な観点での私たちの満足度を高めてくれました。デジタルではこうはいかなかったのではないでしょうか」

サンドグレンはこう結論づけます。「表現したいフィーリングに適したツールを使うことが重要なのです。映画は個人的なものであり、感情に働きかける力があります。私は『アメリカン・ハッスル』や『ラ・ラ・ランド』の製作を通じて学びました。入念な製作や衣装デザインに、フィルムの質感やダイナミックな色彩再現力が組み合わされば、観客と物語の登場人物につながりを生み出すこれ以上の方法はありません。フィルム…、それは単純に表現力が豊かであり、『バビロン』に命を吹き込む唯一の選択肢だったのです」

(2022年12月19日発信 Kodakウェブサイトより)

『バロン』

   2023年2月10日より全国公開

 製作年: 2022年

 製作国: ​アメリカ

 原 題: Babylon

 配 給: 東和ピクチャーズ

​ 公式サイト: https://babylon-movie.jp/

■ パラマウントのPRチームがコダックのために制作してくれた特別メイキング映像

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